2020年12月27日日曜日

予防的リハビリテーションへの達成動機:「高齢者版達成動機尺度」のご紹介

超少子高齢社会となっている日本において,住み慣れたところで生活できるようなサポートを行う地域リハビリテーションがあります.

地域リハビリテーションでは,自助(本人自身の力),互助(本人とその近親者同士の力),共助(制度化された保険などの力),公助(最終的な保障を行う社会福祉制度)といった考え全てに関わります.

社会保障制度の激増によって逼迫される現状においては,医療・介護・福祉サービスができる限り必要とならないために,予防的な観点から自助・互助を高めるリハビリテーション支援が必要となっています.

その自助・互助を高めるために,“目標をやり遂げたい意欲”である達成動機の評価方法,支援について紹介したいと思います.


地域サロン等での研究用のチラシイラスト(定平真実さん作)


以前のブログでも紹介しているように,私はリハビリテーション領域での達成動機を評価する尺度(SAMR)を開発しています.

しかし,SAMRは質問項目の性質上からリハビリテーションサービスを受けている人を想定しているので,医療・介護・福祉サービスなどを受けていない人にとっては回答しにくい質問紙になっています.


そこで,リハビリテーションに限らず地域支援の様々な専門家(医師,保健師,ケアマネージャー,社会福祉士,作業療法士,理学療法士など)からアドバイスをもらい,SAMRの10項目を基盤とした質問内容の改編を行いました.

評価方法として正規の開発手順に則って作成していますので,ぜひ介護予防事業やコンサルティングといった間接支援等に従事している際の評価方法や支援で改編した尺度(Scale for Achievement Motive in Geriatrics:SAMG)を使用してもらいたいと思います.


さらに,地域サロン等に参加する高齢者を対象として,家事動作や外出に関わる活動頻度(FAIという尺度で評価)を基準としたSAMGのカットオフ値を設定しました.

これは,SAMGの合計得点が48点以下だった場合に,家事動作や外出に関わる活動が少ない状態に陥っている可能性を示しています.そのため,そのままの状態が続いてしまうと,自助や互助の力が弱まってしまい,何らかの社会保障制度の利用が増加していく危険性も孕んでいます.

SAMGの評価用紙とカットオフ値のROC分析の資料はこちらからダウンロードできます↓↓

SAMG評価用紙


予防的リハビリテーションにおいて,このSAMGを用いる場合は個人にではなく,複数名の集団に対して評価を行うことが想定されます.例えば,介護予防事業での健康体操や地域サロンでの活動において社会参加を促した結果,どのくらい意欲的になり,社会交流が深まったり外出する頻度が増えたのかなど...

そのような予防的リハビリテーションの関わりを行う際には,SAMRを用いた実践と同様に面接法によって目標,自分の行動,周囲の支援について整理していくのをお勧めします.

そして,高齢者の目標設定について,どんなことを目標に置けば良いのかが難しいという場合には,ぜひ個々の“生きがい(生きる意味や目的)”だったり,“やり残したこと(最期の時に後悔しそうなこと)”などを考え,“生きがい”や“やり残したこと”が叶えられるような目標を設定するように勧めてみてください.


使用方法で不明な点などがあれば,気軽に連絡してくださいね!
連絡先: sanokichi09094@gmail.com

2020年10月22日木曜日

「リハビリテーションに関する達成動機尺度」(SAMR)を用いた実践報告

リハビリテーションでは,対象となる方々にとっての目標に向けた一歩一歩の道のりを支援しています.

その支援において,対象者さんの意欲やモチベーションを全く考慮しないセラピストはいないはずです.

なぜなら,リハビリテーションの対象となるのが“人間”であるからです.

究極的に人間とは何か(人間論)を問うた時に,恩師である京極真先生の著書では「何らかのきっかけや状況のもと,何らかの身体や欲望とともに営んでいる存在」として人間を定式化しています(チーム医療・多職種連携の可能性をひらく信念対立解明アプローチ入門.中央法規出版,2012).

つまり,人間であれば身体の状態と共に,欲望に伴って行動が引き起こされているため,誰にとっても意欲やモチベーションが問題となる可能性があるからです.

そして,リハビリテーションという状況を踏まえると,必ず対象者さんにとっての目標に基づいて実行されるため,対象者さんには目標をやり遂げたいという意欲(達成動機)が備わっているはずだと考えています.

今回は,その達成動機に焦点を当てた作業療法実践の論文について紹介したいと思います.



この度,大学院時代に開発した意欲の尺度(リハビリテーションに関する達成動機尺度;SAMR)を用いた実践が学術誌作業療法に掲載されました.

この論文はオープンジャーナルとして無料で誰でも読むことができるため,リハビリテーションで意欲へのアプローチを検討しているセラピストの方など参考にしていただけると幸いです.

実践報告 介護保険領域における「リハビリテーションに関する達成動機尺度(SAMR)」の臨床有用性~訪問作業療法によるクライエントの目標達成を促す支援を通して~

ちなみに,第一著者は私以上にSAMRを上手に使いこなしている,第一線で活躍する臨床家であり,研究も行える作業療法士さんです.

この論文の実践で行われているように,対象者さんの達成動機への支援を行う際には,まず初めにSAMRを用いて評価することをオススメします.

なぜなら,冒頭で示したように対象者さんの意欲やモチベーションに対して,セラピストは意識的・無意識的に関わっている可能性があるため,例えば対象者さんと目標設定を行うだけでも立派な介入になっているためです.

つまり,本当に対象者さんの行いたい活動や今後の生活を捉えられ,上手に目標設定を行うことができれば,対象者さんの意欲の向上につながっているのではないかと考えています.

これはまだ仮説の段階に過ぎないので今後の検証が必要ですが,目標設定はセラピストが関わる重要なリハビリテーションのプロセスであることに間違いはありません.

この論文では,SAMRを活用することで達成動機の特性をどのように捉え,どのような介入を展開するのかについて具体的な視座が得られる報告になっていると確信しています.

また,この実践の特筆すべき点として,対象者さんの達成動機の変化という主観的な観点のみではなく,行動面の変化の客観的指標として万歩計を用いて評価しています.

さらに,主観と客観による観点の変化を結びつけるための工夫として,目標達成に向けた意識の程度(内省的側面)を含めて,対象者さんの変化の根拠づけに努めています.


評価尺度はあくまでも道具であるため,セラピスト1人1人の意図する支援の効果をどのように証明していくのかについて,現存する道具をしっかりと活用してもらいたいと思います.

それによって,リハビリテーションの重要性,セラピストの存在意義が少しでも多くの人に伝われば,開発者としてこれほど嬉しいことはありません.



使用方法で不明な点などがあれば,気軽に連絡してくださいね!
連絡先: sanokichi09094@gmail.com