2020年10月22日木曜日

「リハビリテーションに関する達成動機尺度」(SAMR)を用いた実践報告

リハビリテーションでは,対象となる方々にとっての目標に向けた一歩一歩の道のりを支援しています.

その支援において,対象者さんの意欲やモチベーションを全く考慮しないセラピストはいないはずです.

なぜなら,リハビリテーションの対象となるのが“人間”であるからです.

究極的に人間とは何か(人間論)を問うた時に,恩師である京極真先生の著書では「何らかのきっかけや状況のもと,何らかの身体や欲望とともに営んでいる存在」として人間を定式化しています(チーム医療・多職種連携の可能性をひらく信念対立解明アプローチ入門.中央法規出版,2012).

つまり,人間であれば身体の状態と共に,欲望に伴って行動が引き起こされているため,誰にとっても意欲やモチベーションが問題となる可能性があるからです.

そして,リハビリテーションという状況を踏まえると,必ず対象者さんにとっての目標に基づいて実行されるため,対象者さんには目標をやり遂げたいという意欲(達成動機)が備わっているはずだと考えています.

今回は,その達成動機に焦点を当てた作業療法実践の論文について紹介したいと思います.



この度,大学院時代に開発した意欲の尺度(リハビリテーションに関する達成動機尺度;SAMR)を用いた実践が学術誌作業療法に掲載されました.

この論文はオープンジャーナルとして無料で誰でも読むことができるため,リハビリテーションで意欲へのアプローチを検討しているセラピストの方など参考にしていただけると幸いです.

実践報告 介護保険領域における「リハビリテーションに関する達成動機尺度(SAMR)」の臨床有用性~訪問作業療法によるクライエントの目標達成を促す支援を通して~

ちなみに,第一著者は私以上にSAMRを上手に使いこなしている,第一線で活躍する臨床家であり,研究も行える作業療法士さんです.

この論文の実践で行われているように,対象者さんの達成動機への支援を行う際には,まず初めにSAMRを用いて評価することをオススメします.

なぜなら,冒頭で示したように対象者さんの意欲やモチベーションに対して,セラピストは意識的・無意識的に関わっている可能性があるため,例えば対象者さんと目標設定を行うだけでも立派な介入になっているためです.

つまり,本当に対象者さんの行いたい活動や今後の生活を捉えられ,上手に目標設定を行うことができれば,対象者さんの意欲の向上につながっているのではないかと考えています.

これはまだ仮説の段階に過ぎないので今後の検証が必要ですが,目標設定はセラピストが関わる重要なリハビリテーションのプロセスであることに間違いはありません.

この論文では,SAMRを活用することで達成動機の特性をどのように捉え,どのような介入を展開するのかについて具体的な視座が得られる報告になっていると確信しています.

また,この実践の特筆すべき点として,対象者さんの達成動機の変化という主観的な観点のみではなく,行動面の変化の客観的指標として万歩計を用いて評価しています.

さらに,主観と客観による観点の変化を結びつけるための工夫として,目標達成に向けた意識の程度(内省的側面)を含めて,対象者さんの変化の根拠づけに努めています.


評価尺度はあくまでも道具であるため,セラピスト1人1人の意図する支援の効果をどのように証明していくのかについて,現存する道具をしっかりと活用してもらいたいと思います.

それによって,リハビリテーションの重要性,セラピストの存在意義が少しでも多くの人に伝われば,開発者としてこれほど嬉しいことはありません.



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