2017年12月10日日曜日

“「無理しない」地域づくりの学校” を読んで再考する福祉

偶然にも本日発刊の“「無理しない」地域づくりの学校  「私」からはじまるコミュニティワーク” を拝読した感想と,そこから改めて「福祉」とは何かについて考えてみました.

福祉・介護・医療に関わる職種は,機械化される職業が増えていく中で比較的生き残っていく職業であると言われています.それは,福祉・介護・医療で取り組む対象者は複雑化・多様化しており,対象者の個別性にうまく対処する能力が必要となるため,まだまだ機械や人工知能で補うのは困難であると考えられています.
また,福祉・介護・医療に関わる職業は利用者(=お客)から感謝をされる仕事と銘打っていますが,実際には働いている人達自体は心身共に疲弊して離職者も多いのが現状で,生き残る職業でありながらも敬遠される職業となっているのではないかと思います.

この本の中でも自分の置かれたの福祉の現状に疑問を感じていた筆者たちの葛藤,それぞれのプラン通じて苦難を乗り越えていく過程や成長が綴られていました.



僕がこの学校を聴講したり,この本を読むことで学べたことは,地域への支援を考える上では個別に飛躍的にスキルアップしたりカリスマを育成するのではなく,他職種や地域に住んでいる人達自体も巻き込んで仲間を作るためのスキルやつながりを作ることだと感じました.
そうであるからこそ,このような実践は誰にでも行える可能性を持っているし,この学校に参加するのに消極的な人も福祉に対しての悲壮感を持った人でも変わっていくことができるのだと思いました.

そこで,この本の大きなテーマとなるものが「無理しない」と「私」です.
しかし,これはただ自分のしたいことだけをやるという単純なものではありません.
校長の竹端先生とも話をさせてもらいましたが,これらの実践を行うためには他者に自分のやりたいことを伝えたり,他者を巻き込むためのコミュニケーションやプレゼンテーションを行えるスキルが必要であり,この学校では今までのコミュニケーションスキルをより一段階高めるようなプロセスがあったと思います.
少し難しい言い方をすると,弁証法的思考で取り上げられる“らせん階段のような発展” が起こっていると思います.
らせん階段のような発展とは,田坂広志さんの著書『未来を予見する「5つの法則」』に書かれている言葉で,例えば“伝える”という目的のために,言語→文字→手紙→電話→メール といった具合に,以前と同じような方法が少し高度な発展を遂げながらも世界に現れてくるということです.
この学校で行われる自分の考えを可視化させるプロセスは,まさに自身のコミュニケーションスキルをらせん階段のような発展につなげているのだと思います.
詳しくは書籍を書かれていますが,この学校で課される「マイプラン」,「ロードマップ」,さらには参加者みんなから発表者へのプレゼントとなる「コメントシート」が,自分の想いを相手に伝えやすくツールとなっています.

また,僕個人としては「福祉」とは何かということがこの本の副題となっていると感じました.
そもそもの福祉とは何でしょうか?
福祉に関わる仕事をしている人でも,改めてこの言葉の意味を問われてすぐに明確な説明を行える人は少ないのではないかと思います.
goo辞書によると,福祉とは「公的な配慮・サービスによって社会の成員が等しく受けることのできる充足や安心」と定義されています.
正直日本語だと全然意味がわからないし,公的機関(サービス提供者)がサービスを受ける人に与えなければならないことであるように捉えられます.
そのために,「私」という存在を押し殺してでも福祉に携わる職業としての立場を演じる必要があり,そうであるからこそ現場の職員はこの福祉という言葉に対応するために「私」を抑え,神経をすり減らしているのではないかと思います.

この福祉という言葉,英語の語源を素にして考えるともっとわかりやすく捉えることができます.
福祉は英語で“welfare”と言われ,well+fareから作られた言葉です.
well=良く,上手に,うまく→健康で,幸福に
fare=旅行や旅,それに必要な料金や費用→何とかやっていく→暮らす
上記のような意味で解釈される言葉であるため,まとめると“健康で幸福に暮らす”という意味になります.
福祉に関わる人は社会の成員を充足させたり安心させたりすることに邁進し過ぎて,自分自身が健康で幸福に暮らすことを置き去りにしてしまっているような気がします.
そもそも自分が健康や幸福でもないのに,他者の健康や幸福を本気で想うことができるのか,またそれを継続させることができるのかを考え直す必要がありそうです.

もっと言うと,日本では働き方や生き方を本当に考え直さなければならない段階になっていると思います.
世界で考えると日本は生産力が低過ぎます.つまり,働く時間に対して生み出す利益が少ないということ.
その一人一人の生産力を高めるためには,効率の良い働き方が重要であると言われていますが,それだけでなく自発的に行動することが不可欠であると思います.
その行動を促すためには内発的動機,つまり「私」が楽しい・嬉しいからそれをするという快感情が伴うことが重要です.
この本でも「私」が「無理しない」地域づくりについて知ることができますが,今後の日本での働き方についてのヒントを学ぶこともできそうです.
ぜひ一読してみてください!

2017年12月1日金曜日

「リハビリテーションに関する達成動機尺度」の紹介と使用方法について

私は病院で作業療法士として働くようになり,3年目から大学院修士課程に進学しました.
大学院とはもちろん,科学や研究とは何たるかを学び,さらには自分自身もあるテーマについて研究を行い,論文を書くということを行っていくところです.
私は大学院に進学しようと思ったきっかけは,人の「やる気」ということに興味があったためでした.

大学院では達成動機をテーマに研究を行い,恩師である京極真先生の指導のもと,リハビリテーションにおいても達成動機を評価することのできる質問紙(Scale for Achievement Motive in Rehabilitation:SAMR)を開発しました.
今回はこのSAMRについて,質問紙と面接を用いた使用方法について紹介します!

恩師である京極真先生の趣味で作ってもらったお気に入りのロゴ
SAMRの使用マニュアルと面接法についての資料はこちらからダウンロードできます↓↓
SAMRマニュアル
SAMRの面接法

ほとんどのことは上記のマニュアルと面接法に詳細を記載しています.
大学のオープンキャンパスなどで参加してくださった高校生やその保護者の方々にもこのSAMRの評価を体験してもらうことがありますが,やる気が出ないことやなかなか行動が持続しないことって誰にでもあるので,障害の有無に関係なく結構共感してもらいやすいこととして受け入れられていると感じます.

SAMRの特徴としては,10項目に対してどれくらい自分に当てはまるかを自己評価してもらいます.
その合計得点によって自分の達成動機の程度がどれくらいかがわかります.また,自分自身が成長することを重視しているのか,達成するまでの過程や方法を重視しているのか,という傾向を把握することができ,その傾向に合わせて支援内容や声掛けを工夫していきます.
さらに,面接法を行うことで目標達成を行いにくくしている原因を探っていきます.
面接法では,①質問紙に回答する時にイメージしていた目標,②その目標を達成するために必要な自分の行動,③その目標を達成するために手伝って欲しい人と内容,について尋ねていきます.
①〜③のそれぞれについて,思い付かなかったり具体的でない場合に,それぞれについての支援が必要となる可能性が高いと思われます.
①に問題がある際には,まず本人が価値を感じられる目標を具体的に設定していく必要があり,その人の将来像を一緒に考えていってあげると良いでしょう.
②に問題がある際には,達成までの道のりを具体的に示すことや目標を常に意識できるようなポスターを作ったり,日々の成果を確認できるような工夫が必要となると思います.
③に問題がある際には,目標と現状を一度冷静に確認することや本人にとっての物的・人的環境がきちんと整っているかを評価することをお勧めします.

このSAMRは,ぜひともリハビリテーションの場面で担当の対象者さんに使ってもらいたいですし,自分自身や周りの人がやる気が出なくて困っている時などに使ってもらいたいと思います.

使用方法で不明な点などがあれば,気軽に連絡してくださいね!
連絡先: sanokichi09094@gmail.com